【団体インタビュー】ワーケーションで、地域に新しいつながりを!観光だけじゃない人吉のまちづくり【ドットリバー】
この記事では、令和2年7月豪雨で大きな被害を受けた熊本県人吉市にて、休眠預金活用事業としてワーケーション事業に取り組んでいる、一般社団法人ドットリバーの活動を紹介します。ドットリバーでは、被災した事業者を対象としてワーケーションを通じた支援を行っています。モニターツアーを実施してモデルプランづくりなどに取り組む、メンバーの祇園下 千裕さん、西 希さんにお話を伺いました。(会話文中敬称略)
「人と人をつなぐ」ことの延長上にあったワーケーション事業
ーーまず、ドットリバーはどのような団体なのか教えてください。
西:ドットリバーは、人と人をつなぐことを目指して活動している団体です。水害前から、旧国民宿舎をリノベーションした「くまりば(人吉市まち・ひと・しごと総合交流館)」内にて、コワーキングスペースCamping Office osoto Hitoyoshiの運営をしていました。現在は、代表の富山孝治と私達2名の3名体制で活動しています。
私は結婚して人吉球磨地域の住民になったのですが、コワーキングスペースで開催されていたセミナーに参加したことがドットリバーと関わるようになったきっかけです。水害の際も復旧作業をお手伝いさせていただきました。人吉のまちなかに賑わいを作っていきたいなと思い、2020年12月からドットリバーに参画しています。
(西さんのアイデアでコワーキングスペース内に設けられたコーヒーコーナー)
ーーワーケーション事業に取り組むようになった経緯をお聞かせください。
祇園下:ワーケーション事業も、ドットリバーが今までやろうとしていたことの延長上にあると考えています。以前から滞在型の企業研修や合宿は実施していたのですが、水害でストップしてしまいました。そうしている間に世間ではコロナ禍を契機としてテレワークが一気に浸透し、ワーケーションも注目を集めるようになります。水害からしばらくは、コロナ前から取組を始めていたのになかなか思うように活動できないという焦りはありましたね。
西:人吉ではコロナ禍に加えて水害もあり、観光客が目に見えて減っています。宿泊施設は空き部屋が多く、飲食店にも観光客が戻ってきていないという状況です。一方で、コワーキングスペースの利用者は増えています。ワーケーションであれば通常より長めの滞在も期待できますし、地域外から人は入ってきているので、観光客が戻ってくるまでワーケーション事業を通じて地域の飲食店や宿泊業に少しでもお金を落とせないかと思い、休眠預金活用事業に応募しました。
祇園下:ワーケーション事業は、2020年7月に水害でコワーキングスペースの営業ができなくなったときの経験もヒントになっています。復旧作業のために地域外から駆けつけてくれた方もいたのですが、ただの作業にするのではなく、復旧しながらも人のつながりを作るということを意識していました。一緒に作業している人と心を通わせて会話をしたり、終わってから遊びに行ったり、水害をきっかけに少しでも人吉を好きになってもらいたいという工夫は、ワーケーション事業にも活かされていると思います。
(西さん。osoto Hitoyoshiにて)
丁寧な事前ヒアリングを踏まえた滞在プランづくり
ーーワーケーションの受け入れはどのように進めているのですか?
西:受け入れ前には先方の担当者と3回程度Web会議を行い、どんなワーケーションにしたいかヒアリングしてプランを練っています。先方に投げてしまうと難しいこともあるので、何をしたいかによって導線を考えたり、場合によってはホテルの予約を代行することもあります。平日の勤務時間はコワーキングスペースを利用してもらい、土日や夜のアクティビティを提案させてもらうことが多いですね。
祇園下:最初の受入れは2021年5月中旬です。ドットリバー代表の声かけで、東京のIT系ベンチャー企業から6名を受け入れました。7月中旬にはその企業がくまりば内のサテライトオフィスに入ることになり、社員1名が移住しています。
それ以後も毎月1社のペースで受け入れており、12月までに8社、累計20~30名程度が人吉でワーケーションを行いました。2022年1~3月にも15名程受け入れ予定です。
ーーワーケーションで来た方は、実際にどのように過ごされているのでしょうか?
祇園下:人吉の場合は、2泊3日くらいの滞在が中心です。長くて1週間程度でしょうか。首都圏から来られる人も多いので、こちらでPCR検査を用意したり、PCR検査をしてから来てもらったりと、感染対策にも配慮しながら進めています。
コワーキングスペースはいつものオフィスとは全く違う環境の中、リラックスした状態で仕事ができます。また観光だけでなく、焚火を囲んで語り合う「焚火トーク」というコンテンツも用意しているのですが、そういうふとした時間に会社では気付かなかった一面が垣間見えることもあります。
他にも実証的にいろいろな施設を使ってもらって感想を聞いたり、飲食店や様々な体験プログラムを紹介したりといったことを繰り返しながら、課題点を洗い出しています。最初の1年なので、失敗しながら試行錯誤という感じですね。現在、休眠預金活用事業を活用してPR冊子やウェブサイトも作成中なので、これを見て人吉でワーケーションをしてみたくなるような仕組みを作っていきたいです。
魅力的なコンテンツが盛りだくさんの人吉。だからこそ「やりすぎない」ことも大切。
ーー失敗もしながらということでしたが、例えばどういった失敗があったのでしょうか?
祇園下:地域側としては、なんでも体験してほしくなっちゃうんですよね。あの人に会ってほしいとか、これ食べてほしいとか……でもあんまり詰め込みすぎると、リフレッシュするために来たのに逆に疲れるという結果になってしまいます。人吉を好きになってはくれたけど、結局仕事ができず、戻ったら仕事がたまっていた……なんてケースもありました。そこで今は、ワーク中心に振り切ろうという方向性を打ち出しています。
西:元々観光地なので、アクティビティや観光スポットがありすぎて、受入側もどこを紹介しようか迷っちゃうんですよね(笑) 先ほどの話にもありましたが、ワーケーションって実際はワークをベースにしたいという人が多いんです。バケーションを楽しむだけではなく、被害があった場所を知りたい、復興のプロセスを知りたいというニーズもあります。
引き出しが多いからこそ、最初にしっかり打合せをして、今回のワーケーションでは何を大事にするのか、参加者側と受入側の双方で確認しておくことは大切だなと感じました。災害復興に関心があるグループであれば、サイクリングで被災箇所を回ったり、発災当時や復興のお話が聞ける場を設けたりしていますし、観光ベースで来る人にはラフティングや青井阿蘇神社の訪問などを提案したりしています。
ーー事業に取り組む中で、難しいことや大変なこと、課題に感じることは何かありますか?
祇園下:今ワーケーションに来ていただいている方は、元々コワーキングスペースを利用していた方が長期滞在するというケースもありますが、多くはドットリバー代表のつながりによるものです。
2年後には代表のネットワークを越えて、人吉ワーケーションそのものの知名度が高まっている状態を目指したいと思っています。口コミで自然と申込がくる状態にまでもっていきたいですね。
西:通常ワーケーション参加者は地域外からいらっしゃるので、緊急事態宣言下では受け入れづらい面があったことは確かです。「え?東京から来るの?」と不安感を示されるケースや、地域の人しか入れなくなってしまった施設もあり、予定を変更したり延期したりせざるをえないこともありました。
とはいえ、割とスムーズに実施させてもらっている方なのではないかと思います。休眠預金活用事業以外にも、観光庁や県の予算を活用したワーケーションもありました。
それから、個人か企業かによって来られる方の年代がバラバラなので、毎回ほどよい距離感を探っているところです。あまり踏み込み過ぎてもよくないですし、一方でたくさん話したいという方もいらっしゃいます。その辺りはなかなか世代でくくれるものではありませんね。
Web会議とリアルで顔を合わせるのとではまた違うので、東京から来た人に「もっと根暗な人かと思ってた!」と言われたことも(笑)相手を見極めて、相手がそのとき求めているものを察知する力が大事だなと感じています。
企業単位でのワーケーションですと、職場の雰囲気や人間関係も感じられます。例えば若手社員が重役の方と一緒で固くなっているような場合は、焚火トークでキャンプ慣れしている若手社員をまんなかにして緊張をほぐすなど、自己満足や押しつけにならないよう、その時々で自分達ができるアシストを心がけています。
水害を乗り越えて。「人吉ワーケーション」の認知度向上を目指す
ーーそれでは最後に、今後の見通しや目指していることについて教えてください。
祇園下:2021年5月からワーケーションの受入れをやってきて、いいところや悪いところ、人吉ならではのコンテンツもある程度見えてきました。2022年度はウェブサイトをオープンすることで、人吉でのワーケーションイメージをある程度つかんだ上でお問合せいただけるようになり、Web会議の回数を減らすなど効率化できるのではないかと思います。口コミでたくさんの方に来ていただけるためにも、今年度中にしっかりウェブサイトを作り込んでいきたいです。
これまでは代表のつながりで、「富山さんの会社がやっているワーケーション」だから来てくれた方も多かったので、満足度も高かったのですが、気を遣っていただいた部分もあったと思います。
次年度はそういったことを抜きにして、地域として人吉を選んで来てくれるお客さんが中心になってくると思うので、そんな人達を満足させることができるかが勝負です。この1年間やってきたことの成果が現れる1年になると思うので、しっかりと関係人口づくりをしていきたいと思います。
それから、地域内でもワーケーションという言葉を浸透させていきたいですね。外からおもしろい若者が来ているということをまちの人にも実感してもらえるくらい、毎月受け入れていきたいです。休眠預金活用事業が終わる頃には観光客も戻り、水害からもある程度復興しているのではないかと思います。そのときには、これまでになかったワーケーションという新しいコンテンツを通して、新たな人のつながりが地域に生まれているはずです。そういったつながりの数は、また災害などが起きた場合も、地域としての強さになっていくと思います。
西:水害があったことで、事業所に限らず、銀行から資金を借りてまでもう1回家を建てるのか、真剣に悩まれている方がたくさんいらっしゃいます。これを機に廃業するというケースも多いのですが、次の世代がいるならもう一度がんばってみようという思いになる場合もあるのではないでしょうか。
若い人の移住が全てではありませんが、それがあるかないかは地方のまちにとっては大きなことです。私達の活動が、事業承継などにもつながればうれしいです。
みなさん、ぜひ人吉にワーケーションにいらしてください!