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地域に入り込んでいるからこそつかめる情報の発信を。復興支援を加速させる、地域コーディネーターの役割。

令和2年7月豪雨による熊本県人吉市および球磨村渡地区の水害は、コロナ禍との複合災害と言えるものでした。市内の中心部を流れる球磨川の氾濫により、同地域は被害総額550億円以上、死傷者70名という甚大な被害を受けました。さらにコロナ禍による緊急事態宣言が事態に追い打ちをかけます。

 県外からの支援に制限がある中、これまで以上に必要とされたのが、被災地を拠点とする地域コーディネーターの存在です。すでに現地の行政や各支援機関との関係性があり、地域のことを肌感覚で理解できるコーディネーターの存在が、復興支援をスムーズに進める上での鍵となりました。豪雨被害を受け、人吉市で地域コーディネーターを務めた祇園下千裕さんへのインタビューから、その重要性に迫ります。(会話文中敬称略)

人吉市の地域コーディネーターを務めた祇園下さん(osoto Hitoyoshiにて)

ご当地アイドルとしての活動がネットワークの基盤に

――まず、祇園下さんと人吉市のつながりについて教えてください。

祇園下:僕は人吉市の出身なんです。最初から地元で働くと決めていたわけではないんですが、大学進学のために福岡に出た後、新卒で地元にUターンしました。実は仕事の傍ら、初代人吉キャンペーンボーイとしてアイドル活動をやっていたこともあります。CDも2枚出させていただきました(笑)

――アイドル活動ですか!?

祇園下:人前で話すのが好きで応募したんですが、観光客に人吉の魅力をPRしたり、お祭の司会をやったり、内外に向けて地域の魅力を伝える活動をしていました。学生のときにはしたことがなかった経験や、地域の方々との交流を通じて、「人吉って思ってたよりいいところだよな」と思うようになっていったんです。戻ってきた当初は、いずれまた出ていこうという気持ちがありましたが、1年も活動しているうちにそんな気持ちはなくなりましたね。いろいろな人に人吉のよさをアピールしているうちに、僕自身も人吉が大好きになっていました。

――異色の経歴ですが、ご当地アイドルとしての活動が地元でのネットワークづくりにもつながったんですね。

祇園下:確かに地元で顔を知られていたことは、地域コーディネーターをやる上でも強みになりました。キャンペーンボーイの活動を通じて、人吉のいい面も悪い面ももっと深く学びたいと思うようになり、24歳のときに地元の県議会議員の秘書に転職します。農業、商業、建設業など、様々な分野で地域のために活動している方々と接する中で、自分も何かやりたいという気持ちが強くなっていきました。

そんなとき2019年4月に一般社団法人ドットリバーへ参画しました。点と点をつなぐように、人吉に関わりたいと思う人や企業を地域へつなぐ、ハブのような組織を目指しています。2019年7月には、コワーキングスペースosotoHitoyoshi(以下、osoto)をオープン。オープンから1年経過した2020年7月、豪雨災害が起きたんです。ここosotoもひざ上まで浸水しました。

豪雨災害後の様子

地域の中と外をつなぐコーディネーターへ

――まさにこれからというタイミングだったんですね……そこからどのような経緯で地域コーディネーターを引き受けることになったのでしょうか?

祇園下:これまでの経験から、地元には声をかけたら集まってくれる仲間がたくさんいました。そういった人脈があったこともあり、発災直後から草の根的にボランティアの受け入れや派遣といった活動をしていました。

社会福祉協議会が運営する公的なボランティアセンターでは、高齢者など優先度の高い場所からボランティアが派遣されます。そこで僕達は逆に、優先順位は低いけれど大変な状況にあるところへ率先してボランティアを回していました。コーディネーターをやっているという感覚もなく、友達のため、困っている人のためという感じですね。この活動を通じて、社会福祉協議会や被災者の方ともつながりができていきました。

全国からいろんな形でご支援いただきながら、復旧作業を進めた祇園下さん(左から2番目)
休憩時のひとこま
作業する中で、たくさんの出会いと新しい仲間ができました

僕は現在、各地で復興支援に取り組む一般社団法人RCFからの委託を受けて、地域コーディネーターとして活動していますが、人吉市役所の商工振興課を通じてオファーがあったのは、復旧作業がある程度落ち着いてきた2020年12月頃です。

本来であれば、RCFのみなさんも人吉に通いながら復興支援をしていただければよかったのですが、コロナ禍で難しい状況でした。仕事や家を失うなど大変な状況にある人が多い中で、現地で自由に動けて人をつないでいける存在としてお声かけいただいたんだと思います。

復旧のボランティアも苦ではなかったのですが、現場での力作業だけではなく、現地と外部をつなぐコーディネーターの必要性を感じていたところでもあったので、引き受けさせていただきました。

地元の声を丁寧に拾い、外部のサポートをフル活用して解決を図る

――地域コーディネーターとして、具体的にはどのようなことに取り組んだのですか?

祇園下:2021年1月からコーディネーターとして動き始めたのですが、RCFメンバーが現地に入れなかったので、まずはひたすら様々な業種の人に30件程ヒアリングを行いました。

どのような被害があったのか、水害によってできなくなってしまったことはあるか、今後どうしていきたいのか、従業員さん達は今どうしているのか……あらゆる情報を吸い上げ、Web会議でRCFメンバーとつなぐなどして、徐々にRCFのサポートがはまりそうな案件を絞っていきました。

1~2月頃は、多いときで週3~4回はRCF側とミーティングをやっていたのではないでしょうか。ここまでがっつり東京の人と顔を合わせて仕事をする機会はこれまでなかったので、てきぱきと仕事を進めていく様子を見るだけでも勉強になりましたね。

地域外から人吉のためにたくさん支援いただいているのをずっと見ていると、「地元にいる僕らがやらなくてどうするんだ!」という思いが湧きました。

――具体的にはどのような支援につながったのですか?

祇園下:現地のニーズを1つ1つ拾って、できそうなところから手を付けていくという感じでしたね。例えば人吉復興商店街「モゾカタウン」や「人吉復興コンテナマルシェ」に入居されている被災飲食店の皆さんからは、店舗再建のために業務用の冷蔵庫や冷凍庫がほしいという声があったのですが、復旧作業の中で生まれた様々なつながりのおかげで、電機メーカーのハイアールから現物を寄付していただくことができました。

冷蔵庫と言えば、「ひまわり亭災害支援ネットワーク」へのサポートもあります。こちらは、郷土料理のお店を経営していた本田節さんを中心とした団体です。節さんは食をテーマとした講演会活動もされていたので、被災後は全国の仲間から多くの支援物資が届けられました。節さん自身も被災する中、仮設住宅や避難所を回って炊き出しなどをされていたんです。そんな中でお米に虫がわいてしまい、保管に困っているという課題があったため、このケースではヤフー募金の支援金を活用し、業務用冷蔵庫の購入を支援しました。

また、ボランティアセンター移転に伴い、復旧作業等で使用する大量の作業道具を保管する場所がなかったため、RCFを通じてフィリップ モリス ジャパン合同会社から、道具倉庫の購入費用の一部を支援いただいたりもしました。

左:冷蔵庫の寄付をした時の様子、右:支援した倉庫
――現地の困りごとに対して、様々な外部リソースを結び付けながら解決されてきたんですね。特に印象に残っている事例はなんですか?

祇園下:2021年7月に開催した、ベンチ塗りワークショップです。仮設住宅は様々な地区から移り住んでくるため、元々住んでいた地区と違い急に知らない人達の中で過ごさなければならないという環境の変化があります。入居者からも、「入居者同士のコミュニティスペースが欲しい」という声が上がっていました。

また、同じ時期に人吉復興コンテナマルシェからも「お客さんのくつろぎの場が欲しい」という話を聞いたので、コミュニティづくりのきっかけになればとみんなで17脚のベンチを作りました。

当日は人吉市長やタレントのスザンヌさん、地元の子ども達、コンテナマルシェの入居者、仮設住宅の入居者やサポーター、行政職員の方々など、50名以上が参加してくれました。ただ作って渡すだけではなく、制作を通じて新たなつながりを作りながら、思いをのせて渡すことができたと思います。

お弁当もコンテナマルシェに入っているお店のものを用意することで、コンテナマルシェにも足を運んでもらえるようなきっかけを作るなど、支援をするときは常に「かけ算」を意識しています。

制作したベンチは、各地の仮設住宅とコンテナマルシェに設置しました。作ったベンチに座っている人を見かけると、うれしい気持ちになりますね。

ベンチを塗る参加者の皆さん
最後にはみんなで記念撮影(撮影時のみマスクを外しております)

災害支援の中で見えてきたコーディネーターの価値

――コロナ禍とも重なる中で難しい面も多々あったと思いますが、活動する中でどのような課題がありましたか?

祇園下:コロナ禍ならではの大変さとして挙げられるのは、復旧作業の際の圧倒的マンパワー不足です。全国から足を運んでボランティアしたいという声を多くいただきましたが、緊急事態宣言等の発令下に置いて、当初ボランティア受け入れは熊本県内の方に限定されました。復旧から復興のフェーズに入るまで思っていたより時間がかかったような気がします。

また災害復興の現場では共通の課題だと思いますが、これまで自分自身が被災した経験がなかったので、何が正解かわからない中でいろいろなことをやらなければならない難しさもありました。ヒアリングを重ねてたくさんの困りごとを抱える中で、どれを優先すればいいのか悩むことは多かったです。RCFは他地域での復興支援の蓄積もあり、多くの事例を知っているので、いろいろと教えてもらうことができました。無数にある課題の中からどれとどれをマッチングするのか判断するのも、コーディネーターの役割だと思います。

――実際に活動してみて、地域コーディネーターの価値はどういったところにあると思いますか?

祇園下:その地域に暮らしているからこそわかる部分というのはあると思います。外部から支援する場合、まずは市役所や商工会議所、観光協会といった公的な機関にアクセスしますが、そこでも把握できていない課題を抱えている被災者はたくさんいます。どこからも支援を受けられていない人にたどり着くというのは、地域の内部にまで入り込まなければ難しい。そんな情報を発信していくことに、コーディネーターの価値があると思っています。

それから、外部団体は地域住民から警戒されがちな存在でもあります。被災して心が不安定なときであればなおさらです。そこでコーディネーターが間に入ることで、被災者の方も安心して外部とつながりやすくなります。「この人が言うなら大丈夫」と思ってもらうためにも、コーディネーターが地域と信頼関係を築けていることは大事だと思います。

僕個人としても、コーディネーターをやったことで成長がありました。元々「点と点をつなぐ」ということを掲げていたのですが、実体験として「つなぐってこういうことなんだ」と思える事例が増えました。どこをつなぐと何が起きそうか、アイデアが浮かびやすくなったと感じています。

新しくつながった人もたくさんいますし、これまではあいさつ程度だった人達とのつながりが強くなったことも、数だけでは表せない成果です。活動を通じて、多くの方と心がつながれたという感覚をもてました。

豪雨災害後も地域のみなさんと一緒に国宝 青井阿蘇神社の例大祭「おくんち祭り」を開催することができた
――地域にとって必要というだけではなく、個人のキャリアアップという面でも、地域コーディネーターには大きな可能性がありますね。どんな人が向いていると思いますか?

祇園下:人が好きな人でしょうか。オンラインだと時短にもなるし、移動もしなくて楽なんですが、被災者の本音など画面越しだと伝わってこない思いはやはりあります。外部の支援団体と被災者を直接つなげる機会づくりはもちろんですが、コーディネーターには地域の声を受け止めてそのままの熱量で伝える、代弁者としての役割もあると思います。熱量はもちながらも、あまり私情をはさまず平等に判断することも必要です。

コワーキングスペースosotoHitoyoshiでのMTGの様子

コーディネーターの経験を活かして。これからも点と点をつなぎ続ける

――最後に、今後の展望を教えてください。

祇園下:今後はくまりばを拠点とした様々な企業の誘致や関係人口づくりを通して、若い人がどんどん人吉に関わりをもてる未来をつくっていきたいと思っています。

しかし、そういった活動をしながらも一方でまだまだ生活再建を果たせていない被災者が多くいらっしゃることも忘れたくありません。コーディネーターの仕事をしていなければ、被災者の気持ちはわからなかったと思いますが、今は心の片隅に被災者や事業者の方の顔が浮かぶし、大変な思いをされている方もいるということを理解した上で、夢のある活動ができています。すぐには花が咲かないかもしれませんが、両方の視点をもつことができたのは大きいですね。

地域コーディネーターとしての契約は2021年12月で終了しましたが、これからもいろいろな「点をつなぐ」活動を続けていきます。

2021年2月に営業再開することができたosotoの運営もその1つです。人吉と関わりを持ち続けてもらうためにはハブとなってつなぐ場が必要です。osotoがそのようなハブとして徐々に機能しつつあるので、今後も社会人向けの学びの場である「ひとよしくま熱中小学校」の開催や、ワーケーション事業など関係人口づくりを通して復興に向かって取り組んでいきます。

――祇園下さん、ありがとうございました!

※本活動は、活動の一部、本記事作成等について日本財団の支援を受けて実施しています。

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